iwahead

おひさま農園/館山市豊房(とよふさ)地区 岩槻伸洋さん×安西理栄 インタビュー

「どうして農家になろうと思ったのですか」

生時代は生物学が専攻で、福島県の裏磐梯でカゲロウの幼虫を見つけたり、フィールドワークをしたりとファーブル昆虫記みたいなことをやっていました。大学を卒業後、社会人になったらモノづくりがしたくて、前職は東京でSE(システムエンジニア)をやっていました。当時はまだ情報産業も創世記でいろんな人が業界に入ってきていたので、私みたいな人間でも入れた時代でした。情報産業に入ってモノを作り始めてドハマりして、これが私の天職だと思ってやっていました。システム開発の仕事は楽しかったですね。最初はコーディングから始まり、システム設計、プロジェクトマネージャー、最後には管理職まで。ただ仕事に占めるモノづくりの割合が年齢を重ねていくに従って減っていきますよね。利益を出すためにも世の中の会社の組織としては、下の人間が手を動かし、管理監督する側に回ることも多く、この業界ではやり切った感が出ていました。40歳手前で、このまま定年までこの業界で人生終わるのか、全く別の業種でやって人生終わるのか、一つの選択肢が出てきたときに、自分で手を動かすモノづくりの業種を、初めてモノづくりをするわくわく感みたいなところをもう一回やりたいと思っていました。

 

iwa0

38歳の頃、妻が新潟の専業農家の出身だったこともあり、妻の実家に帰って祖代々続く農家をやっているのを見ていた時、農業は人がやる「モノづくりの原点だな」って思いました。狩りの時代、弥生時代、振り返ってみても、食べるものを作ることは、人間が生きていくうえで、一番最初に始めた仕事なので、この原点になる仕事がすごく原点で楽しそうに見えたんです。農業をやると決意してすぐ退職し、千葉の農業大学校に1年間通い、翌年に館山に移住してきて現在に至ります。

「館山を選んだ理由、地域の特色を教えてください」

出身地は神奈川県横須賀市の久里浜で対岸がちょうど南房総、そして前職では市川市の行徳あたりに住んでいて、千葉県を身近に感じていたので、千葉で就農しようと決めました。土地も広いですしね。

地域の特色という観点では、南房総地区は房総半島の中でも温暖な地域で、館山市付近は、静岡県の伊豆半島南部とか高知県とかと同じくらい暖かいので、冬でも野菜が育ちます。それが、この土地での一番の特色かな…。全国の厳寒期の真冬に出すレタスとして産地指定されている野菜が、館山の神戸地区に「かんべレタス」という全国ブランドでありますが、冬に工夫次第で色々なものが育てられるのです。そういった特色の地域で自分に合った品目を探しているうちに、辿り着いた答えの一つが施設の中で育てる冬場のスナップエンドウでした。

 

「安全面で心がけていることや、経験で得たこと」

安全面で心がけていることは、毎日一文でもいいので、「栽培日記」を付けるようにしています。内容としては作業日誌ですが、薬の散布なども記録して残すようにしています。毎日の記録が、年を遡ってその時期に何をしていたか、薬を撒いた回数などを確認することができるからです。そもそも、うちの農園は薬をほとんど使いません。千葉エコ農産物基準がありますが、かけなければいけない時にだけ薬をかける程度で、その基準値に満たないレベルでしか使いません。いわゆる減農薬栽培ですね。農薬は手間がかかるので、かけなくても出来るのであれば、使いたくないです。厳寒期や施設の中だと虫の活動も落ち着くのですが、以前ヒツマ虫などの虫のピークがありました。

実はこのハウス2020年の夏に建てたばかりで9月の中旬くらいまでビニールを張っていなかったので、虫が入り放題だったんです。夏場に入ってしまったアブラムシを抑えるために、一回薬を撒まきました。その後は、毎朝収穫する時に虫を見つけては、「あっコイツ!」って言って1匹ずつ退治しています。笑

「虫の対策が一番大変ですか?」

野菜によって異なります。虫の被害が甚大なものと、病気の被害が怖いものでは、野菜の種類によってウエイトが違いますね。虫はあまり重大な被害にならないけど、病気の方が心配という作物もあります。そういう場合は、殺菌剤を使います。どこの農家も使い分けていると思いますが、薬には系統があるんですよ。殺虫剤であれば、神経系に効く殺虫剤とか、虫の脱皮を阻害する脱皮阻害剤とか。虫の生育ステージに合わせた殺虫剤があるんですよ。それを、同じ系統ばかり使っていると、虫に耐性が出来てしまうので、農薬というのは必ず系統を変えながらローテーションして使わないといけません。そういう農薬を使用する知識などは重要かなと思いますね。

昔から同じ野菜を作り続けている農家さんは、使用する薬の回数や種類が、年間のスケジュールで決まっていると思います。一方で、新規就農者特有かもしれませんが、うちのように、年間何品目も作る農家では、毎年やり方が違うんです。

「主に生産しているお野菜を教えてください」

5月にそらまめ、6月トウモロコシ、7月8月9月が茄子・ミニパプリカ、

10月黒枝豆、11月12月1月2月までがスナップエンドウを作っています。

館山で就農して10年間は色々試してきた中で、ここ2〜3年で年間の作付け品目とそれぞれの品目の作付け期間など年間の作業スケジュールが固まってきた感じです。果樹なら、ブルーベリー作りたいとか、ミカン作りたいとか、品目を決めてはじめる人もいますけど、「野菜を作りたい」と就農する人達って、人参や大根を作る!と決め打ちで作りたい人は少ないと思います。僕もそうだったんですけど、最初はあれもやりたい、これもやりたいってなってしまうんですよね。少量で色んな物を植えて、色んな種を蒔いて、育てながらトライアンドエラーを繰り返して…。

種を蒔く時期のパターンも色々試さなければなりませんし、最初の5年間はそんな感じでした。品目が沢山あるわ、時期のパターンも沢山あるわって、頭の中で並行タスクが走っている感じでした。その経験があったからこそ、どの時期に何が育つか、どういう方法が良いのかなど、どんどん修錬されたと思います。

「おひさま農園さんが作る野菜の魅力とは?」

iwa1

うちの農園は基本小規模なので、直売所には出していますが、市場出しはしていません。スーパーに並んでいる物との違いは鮮度ですね。それは、収穫してから店に並ぶまでのリードタイムが短いからです。あと、もう一つ重要なのが、収穫する時間帯が違います。日が昇って気温が上がる前に収穫するのですが、これは冷蔵庫に入っている状態で収穫するのと同じなんです。野菜も、人間の体温が上がると活発になるのと同じで、気温の上昇と共に呼吸量が増えます。なるべく呼吸量が少なく、消耗しないタイミングで収穫することが、鮮度を長持ちさせるために大事なところですね。野菜の美味しさにも直結する鮮度。そこがスーパーに並んだ野菜とは大きく違うところだと思います。

「館山の未来に期待すること」

経済や地域活動を回していきたくても、人口が維持できないところは衰退していきますよね。私が館山市に来た時の人口はぎりぎり5万人はいましたが、この10年で減少し今では約4.5万人です(2020年11月現在)。これから先も高齢化が進み、これからの地方で目覚ましい発展はないかな?と思っていますが、終わりが来るのを何もせずにいるのも嫌なので、少しでも長く地域の活動が続くようにできればいいなと思います。

 

私が暮らす部落には青年会がありまして、青年会と言っても若くて40〜50代、最高齢60歳ですけどね。普段の活動は、神社掃除や、田んぼを維持するための水路掃除ですが、意外と重要なのがお祭りです。お祭りは、神社をという装置を利用して営むシステムですが、地域コミュニティを維持するために重要な役目を果たしています。地域住民がまとまってその地域でお互い助け合いながら生活するためのシステムなので、崩れ始めると地域が崩壊してしまうと思います。このシステムを止めることなく維持するために必要なのが、実は農業という業種だと考えています。家の周辺で一日仕事をしている人間、農業という業種が地域維持に貢献できる業種なんだろうなって。


農業大学校に通っていた頃、他地域の農家に見学に行ったのですが、新規就農者の若い農家さんが、地域に溶け込めず、孤立してしまっている方もいました。畑も外から見えなくしている農家を見て、ここで農家をやっている意味があるのかなって疑問に感じていました。そんな中で、私が農業を目指したとき、作物を作る事だけが農業ではなく、地域コミュニティの活動を維持するということも農業っていう職種の役目だと思ってきました。最初の5年間は自分の農業よりも地域の活動や消防活動の方が最優先でしたね。そのおかげで、他県から就農してきたにもかかわらず、部落の青年会長を任され、部落の代々続くお祭りの仕切り役もやらせてもらえるようになりました。

農業を始めるときの意識付けみたいなものは、誰かが教えてあげないとダメなのかなって思います。つい先日、NPOの農育プロジェクトという活動で、現在千葉県の浦安市でサラリーマンをやっている50代ご夫婦が就農したいと相談にいらっしゃいました。その方には農業の話だけではなく、地域コミュニティーの関わり合いなどの話もして、就農するということを理解してもらいました。

持続可能なコミュニティ活動ができることが、この地域で就農するためのポイントになるでしょうし、そんな仲間が集まることこそが館山の未来に期待することだと思っています。