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オンザファーム/館山農場・南房総富浦農場 渡辺幸司さん×安西理栄 インタビュー

「農家をはじめたきっかけを教えてください」

農業を始めたきっかけは、3つあります。

 

1つはもともと実家が農家だったから。
祖父母がお米を作っていて、両親がハウスでカーネーションを育てたり、レタスや菜花や琵琶を育てたりしていました。子供のころは、お小遣い目的で手伝いはしたけれどそんなにやる気はなかったですね。現在は兄が実家を継いでやっていますが、正直大変そうだな…って感じていました。
高校を卒業し、明治大学法学部へ進学し、普通に就職すると思っていたのですが、海外ボランティアと出会い、そこでハンセン病などで隔離されている村が世界各地にあることを知りました。
僕は中国の隔離している村でトイレを作ったり、道を舗装したり、とても貧しいので生活面のケアを中国人の学生と早稲田の学生と一緒に行っていました。大学時代は、殆ど学校にも行かずにボランティア活動ばかりやっていました。

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そのおかげで、いざ就職活動をするときも、海外ボランティアで感じた生きていくための農業、子供を大学まで出すことが出来る経済的な面から見た農業の両側面から、農業に進むことに決めました。
2つ目は、高校生の頃、ライブドアや楽天、村上ファンドなど、起業家が新しい世界を作っていく中で、農業界では人も少ないと感じ、大学時代には農業で起業したいと考えていたからです。ただ、いきなり農業を始めるのは、社会経験もなく難しいと感じ、社会的スキルを身に着けるために、1年間ベンチャー企業で働きました。当時、有機農業への具体的なイメージがなかったのですが、実家のある滋賀県の農業生産法人の副社長さんに出会い、有機農業が学べる農業学校で勉強を始めました。
そして3つ目は、単に野菜を生産するための農業ではなく、学びや体験が出来る農業にしたいと考えていました。それを実現するための説得力をつけるために、自分が農業を知ろうと思って始めました。

「将来的にやってみたいことはありますか」

いずれは、飲食店などもやってみたいし、八百屋を借りて何か新しいことにも挑戦したいと考えています。これは、いわゆる6次産業のような直売所から商店、飲食店をつなぐイメージですね。
南房総市周辺は、過疎化が激しい地域です。都内からもそれほど遠くなく、都心から移住してきている人もいるので、この方々と一緒に農業界に入れていけたらいいなぁ…と。南房総エリアに興味を持って住み始める方々は、自然がいいとか海がいいとかそういう理由で移住される方が多いと思います。そういう方々は農業とか家庭菜園に興味があると思うので、やり方を教えながら、少し大きい規模の農業へとシフトしていってもらえば、休耕田も減っていくと思います。

「高齢化・過疎化は大きな問題ですね」

若い人にも来てもらわないと。自分の父親が団塊の世代で、ここ5年くらいで、どんどん高齢化が進んでいて、地域を担っていた方々の人口が減ると地域が大混乱を起こします。地域の田んぼを管理していた人間が一人いなくなってしまうだけで本当に大変です。農業をはじめた頃は、条件の悪い農地しか空いていなかったのが、いよいよ好条件の農地が空いてきました。このエリアの瀬戸際を感じています。 今まで横のつながりで、仮に団塊世代の方が引退されても近くの人が代わりに手伝ってくれて、維持していけたのが、今では、誰かが抜けてしまうとその穴を埋めることが出来なくなってきてしまっています。そういう方々が若い方を呼び込むのは困難なので、代わりにうちが会社として農業をやり、地元の信頼を得ることで、うちで農業を学んだ人が、抜けてしまった穴を埋めていくことが可能になるのではないかと思います。

「生育管理で気を付けていることは?」

大変なところで言うと、品目が多く、自社の宅配もやっているため、常に野菜がなければなりません。
野菜を切らさず、仕込みつつ作業をし、生育状況を管理しながら進めていくのが大変ですね。葉物だけにした方が管理も楽だし売上になりますが、「この時期にピーマンがある」というのが他社との差別化にもつながるポイントなので、冬野菜なら葉物ばかりにならないよう、ピーマンを出したりしてバランスを考えています。そういったところを考えながら作っていくのが難しいですよね。

「今は何品目くらい作っていますか?」

うちの農業スタイルは中量多品目です。細かく言うと、夏も冬も50品目以上作っているので100品目以上です。主力の10~20品目くらいの野菜は多めに作り、八百屋さんにも出せるようにしています。 その他は、飲食店・小売店からの要望に応えられるように変わった野菜を作っています。ただ、変わったものばかり作っても、売るところが決まってきてしまうので、売り先の幅を広げるためには両方作らなければならないですね。ちなみに、毎年1割くらい新しい野菜に挑戦していますよ。

「栽培方法のこだわりは?」

鶏糞とか牛糞とかの動物性の肥料は使用せず、米ぬか・油粕・もみ殻など植物性の肥料しか使用していません。その理由は、滋賀県で農業を始めたとき、鶏糞や牛糞を手に入れる手段がなく、当時はキノコの廃菌床を使っていました。鶏糞や牛糞の中には、ホルモン剤を打った鳥とか牛も中にはあります。その糞である動物性の肥料は嫌だなと思われる方もいたので、差別化するためにも自分たちは植物性の肥料を使用することを継続しています。 有機石灰も牡蠣殻だし、卵の殻も動物の卵だし、黒石灰は鉱物なので使えるな…などと考えながら、もみ殻を集め、米ぬかと油粕を混ぜて、堆肥化して年に1回くらい使っています。ただ、堆肥は入れすぎたら虫が湧いて、硝酸窒素が上がってしまったりするので、入れすぎないよう注意しています。 ハウス栽培の場合、基本的に薬は撒きません。この辺りは陽気もいいので、冬場でも葉物は1カ月半くらいで収穫できてしまいます。アブラムシが出始める前に収穫が始まるので、大発生することなく新鮮な野菜が出せます。これから夏にかけては発生しやすいのでそこは課題ですね。夏は、遮光ネットを使いながら温度管理にもこだわっています。ハウスの中が熱すぎると、身が大きくならなかったり、成長しなかったり、味が落ちたりするので、温度を下げながら虫対策にも徹底しています。 動物の世界と一緒で、野菜も元気がないと、虫も寄ってくる、野菜が元気なら、虫がついても大量発生はしません。そのため、もし元気のない野菜を見つけた時は抜いています。なぜなら残しておくと、他の元気な野菜に害が出るからです。早期発見・早期防御が大事ですね。

「南房総の大変なところは?」

虫以外に大変なのは、房総地区は風ですね。 2019年の台風で、うちは8割近くダメになり現在も再建中です。あと1月2月頃はものすごく強い風が吹くので、路地栽培の野菜が大変です。ハウスも吹き飛ばされますし、潮風のせいで、生身の状態で出しておくと野菜が赤くなったり、萎れてしまったりするため、予防策を考えて実施しています。

「この地域に期待することはありますか?」

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田舎の問題は働く場所だと思います。就農しようと思ったら、自分で経営者になって働かなければならないからハードルがあがります。でも普通に農業を選択して一般企業と同じように就職して働けるような環境があればいいなと。農業って女性の力が発揮できる場所だと思っています。日用品として野菜を購入するのも女性ですし、消費者であり生産者である女性の目線はとても大切です。そのため、パッキング1つとっても厳しいですが、うちの会社は女性のスタッフさんに多く働いてもらっています。 農業は、飲食店やお店や体験授業や食育など色々繋がっているはずなのですが、農業を始めることが、難しい現状があります。

これは、需要と供給のマッチングが出来ていないからだと考えます。皆さん、農業を始めようとするとき、最初に行政に行きますが、行政の人達農業やったことないので、細かい事情までが分からないことがあります。就農希望者は、菜花作りたいとか、ビワ作りたいとか、具体的なものを決めて農業を始める人って少ないので、そこに、ニーズと現状がマッチングしないんです。将来、うちのような農業生産法人が出来てくれば、働きながら勉強をして、経営者にならなくても野菜を作って生活したいって人が沢山出てくると思います。そういう人たちが増えてきたら休耕田なども減ってよい循環が産まれてくると思います。昔からの農家同士の関係を継続させるための労力よりも、未来を見据えて、このあたりの仕組みを考えていくチャンスだと思っています。

現在は「自然の家」という場所でイベントの一環として収穫体験を開催しています。 台風後、自然の家の方々が、お手伝いに来てくださっているので、そこから繋がって収穫体験を始めました。収穫体験用に、一度にたくさんの品目が採れるようにまとめたスペースも作りました。 今はコロナが蔓延していてなかなか動くことが出来ませんが、今後は徐々に農業活動イベントを増やせていけたらいいかなと思います。